政治

ホルムズ海峡封鎖4週目──世界のエネルギー供給を揺るがす危機の全容と日本への影響

発端:米・イスラエルによるイラン攻撃

2026年2月28日、米国とイスラエルがイランに対する大規模な軍事攻撃を開始した。この攻撃でイランの最高指導者アリ・ハメネイ師が殺害され、中東情勢は一気に緊迫化した。

これに対する報復として、イランの軍事組織「イスラム革命防衛隊(IRGC)」は3月2日、世界の原油・LNG海上輸送の約2割が通過するペルシャ湾の要衝ホルムズ海峡の封鎖を正式に発表。通航する船舶を攻撃すると宣言し、世界のエネルギー市場に衝撃を与えた。

イラン政府は公式には「封鎖していない」と説明しているが、革命防衛隊が海峡付近の船舶に通過禁止を通告したことで、民間船舶はリスク回避のため航行を見合わせており、事実上の封鎖状態が続いている。すでにタンカーなど民間船舶への攻撃も報告されており、機雷敷設の情報も出ている。

封鎖の現状:「選択的通航」という新たな局面

3月中旬に入り、イランの封鎖は新たな段階に入った。海事情報会社ウィンドワードの分析によると、3月15〜16日に少なくとも5隻の船舶がイラン領海を経由してホルムズ海峡を通過したことが確認された。

これはイランが「友好国」の船舶を選別して通過を許可する「選択的封鎖」へと戦略を転換したことを意味する。JPモルガン・チェースのアナリストは、船舶がイラン沿岸のハラク島とケシュム島間の迂回ルートを利用していることを指摘し、所有者と積荷の確認手続きを経たうえで、米国やその同盟国に関係しない船舶の通航を認めている可能性があると分析した。

イランは海峡の主導権を誇示しつつ、個別交渉で各国を取り込む外交カードとして封鎖を活用しようとしている。

トランプ大統領の48時間最後通告と緊張のエスカレーション

3月21日(米東部時間)、トランプ大統領はSNS「トゥルース・ソーシャル」で、48時間以内にホルムズ海峡を完全に開放しなければ、イランの複数の発電所を攻撃し壊滅させると警告した。

これに対しイラン軍中央司令部は即座に反応。発電所が攻撃された場合、ホルムズ海峡を「完全に封鎖する」と警告し、中東の周辺諸国にある米軍基地付近の発電所も「正当な標的になる」と威嚇した。

しかし3月23日、トランプ大統領は態度を一転。イランとの間で「建設的な対話」が行われたとし、発電所攻撃を5日間延期すると発表した。「主要な合意点に達した」と説明したが、イラン側は「交渉はこれまでも行われておらず、今後も行われる予定はない」と全面否定。トランプ氏がイランの反撃の構えを前に姿勢を「後退させた」との見方を示した。

現時点では、5日間の猶予期間中にあり、米国陸軍空挺部隊のイラン原油輸出拠点カーグ島への派遣検討も報じられるなど、予断を許さない状況が続いている。

原油価格と世界経済への影響

封鎖の影響は原油市場を直撃した。

  • 攻撃前日(2月27日)のWTI原油先物価格は1バレル67ドルだったが、3月5日には76.68ドルに上昇
  • 3月5日にはイランが米国のタンカーを攻撃したことで80ドルを突破し81ドル台を記録
  • 3月9日には一時1バレル120ドル近くまで急騰
  • 北海ブレント原油も4年ぶりの大幅高を記録

米欧の損害保険大手はペルシャ湾での戦争リスク補償を停止しており、保険料の高騰も海運停止の大きな要因となっている。

ゴールドマン・サックスは、封鎖が1カ月続いた場合、代替ルートで補える量は封鎖で減少する分の半分以下にとどまり、産油国は貯蔵限界(約3週間)を超えて減産を迫られると分析している。封鎖が2〜3カ月以上継続すれば、原油価格が100ドルを突破する恐れもある。

国防情報局(DIA)の内部評価では、イランはホルムズ海峡の封鎖を1カ月から最悪6カ月継続する可能性があるとされている。

日本への深刻な影響

日本はエネルギー輸入において中東への依存度が極めて高い。原油の中東依存度は約94%に達し、そのうち約9割がホルムズ海峡を経由している。

封鎖の影響は以下の形で日本に及んでいる。

海運の停止: 日本郵船や川崎汽船がホルムズ海峡の通行を停止。日本船主協会によると、ペルシャ湾内に日本関係船舶44隻が取り残されており、その約3分の2が原油タンカーやLNG運搬船である。

エネルギー価格の上昇: ニッセイ基礎研究所の試算では、原油価格が目先大きく動かなくてもガソリン価格は1リットル170円前後に上昇する見通し。ドバイ原油が110ドルまで上昇した場合、ガソリン価格は204円前後まで急騰する計算になる。

経済全体への打撃: Oxford Economicsの予測では、封鎖が続けば日本経済はスタグフレーション(高インフレと低成長の同時進行)に陥り、2026年のGDPは想定より0.6%低下するとされる。

日本は国内に約254日分の石油備蓄を有しており、短期的には備蓄放出で対応可能だが、中長期的には原油高と円安が重なり、国内の燃料価格が大幅に押し上げられる可能性が高い。

国際社会の対応と日本の立場

3月19日、日本は英国、フランス、ドイツ、イタリア、オランダとともに、イランによる商船や民間インフラへの攻撃を非難する共同声明を発表。ホルムズ海峡での安全な通航確保に向けた「適切な取り組み」に貢献する用意があるとした。

一方、トランプ大統領は同盟国に対し掃海艇などの軍装備品の提供を繰り返し要請しているが、NATO諸国や日本、韓国、オーストラリアはこれを拒否している。トランプ氏は「米国が利用していないホルムズ海峡を利用する国々に責任を負わせるべきだ」と不満を表明。日本と中国の関与を求める発言も行っている。

日本にとっては、2015年の平和安全法制で議論された「ホルムズ海峡の機雷掃海」が現実の課題として浮上している。当時の政府は、同海峡への機雷敷設が「存立危機事態」に該当し得るとの見解を示していたが、実際の自衛隊派遣には法的・政治的なハードルが依然として高い。

代替ルートの限界

ホルムズ海峡を迂回できるルートは極めて限られている。

サウジアラビアは東部の油田地帯から紅海沿いのヤンブー港まで全長約1,200kmの東西石油パイプライン(日量500万バレル)を有するが、余剰能力は約240万バレル程度とされる。UAEにはハブシャンからフジャイラ港への約360kmのパイプライン(日量150〜180万バレル)があるが、いずれもホルムズ海峡経由の輸送量をすべてカバーすることは困難である。

さらに、LNG輸送には代替ルートがほぼ存在しない。世界最大級のLNG輸出国カタールからの天然ガス供給が途絶するリスクは、特にアジア各国にとって深刻な問題となっている。

今後の展望

戦争は4週目に入り、解決の糸口は見えていない。CNNの報道によると、米国当局者は封鎖の長期化を回避したい考えだが、明確な解決策がなく、情報当局者の一人は「この問題でイランが実質的な主導権を握っている」と認めている。

今後の焦点は以下の3点に集約される。

第一に、トランプ大統領が5日間の猶予後にどのような行動を取るか。発電所攻撃に踏み切れば、イランは「完全封鎖」で応じると明言しており、事態はさらに深刻化する。

第二に、パキスタンでの米イラン会合の実現可能性。トランプ氏は「戦闘終結へ協議」を進める姿勢を示しているが、イラン側は交渉を否定しており、溝は深い。

第三に、国連安保理での武力行使容認決議案の行方。ホルムズ海峡の安全確保を目的とした決議案が提示されているが、中国やロシアの対応次第では否決される可能性もある。

韓国政府が「曜日制」の乗用車利用抑制に踏み切るなど、アジア各国は原油供給不安への対応を迫られている。ホルムズ海峡の危機は、日本を含むエネルギー輸入国にとって、エネルギー安全保障の在り方を根本から問い直す契機となっている。


本記事は2026年3月25日時点の情報に基づいています。中東情勢は日々変化しており、最新の動向にご注意ください。

出典:Bloomberg、CNN、時事通信、AFP通信、日本経済新聞、中東調査会、野村総合研究所、ニッセイ基礎研究所、三井住友DSアセットマネジメント、ダイヤモンド編集部、貿易ドットコム、ROLES(東京大学先端科学技術研究センター)、Energy Tracker Japan

Written by もろけん